虚血性心疾患
虚血性心疾患は、心臓に酸素や栄養を供給している冠動脈という血管が狭くなったり詰まったりして、心筋にスムーズに血液が行かなくなることで起こる病気で、「急性心筋梗塞」や「狭心症」などがあります。主な原因は動脈硬化で、加齢によって血管が硬くなったり、内壁に脂肪などの塊(プラーク)が蓄積して血管が狭くなったりしている状態のことを指します。冠動脈が狭くなると、心筋に必要な血液が不足するために胸の痛みや圧迫感をおぼえます。これが「狭心症」です。
さらに動脈硬化が進むと、溜まっていたプラークが何らかの原因で破裂します。それを修復しようとしてできた血栓が血管内を塞ぐことにより、突然心筋に血液が流れなくなります。これが、急激な胸痛や息切れ等が自覚症状として認められる「急性心筋梗塞」です。
急性心筋梗塞および、狭心症の中でも心筋梗塞に移行するリスクが高い「不安定狭心症」は、一刻も早く診断・治療する必要があります。特に、昼夜関係なくいつ起きるかわからない急性心筋梗塞の治療は、可能な限り早く冠動脈の血流を再開させることが救命上、最も重要です。当院では循環器内科専門医、心臓血管外科専門医が24時間体制で診療し、夜間であっても緊急カテーテル治療や緊急外科手術を迅速に行うことができる体制を整えています。
緊急性の低い「安定狭心症」は、早急に治療する必要はありませんが、的確な診断を受けた上で、最適な治療法の選択を行うことが治療後の経過を大きく左右します。診断は外来診療で、「運動負荷心電図検査」、「血液検査」、「心エコー図検」、「冠動脈造影CT検査」、「心臓MRI検査」など、患者さまへの負担やリスクの少ない検査から順に施行しております。できるだけ安全かつ確実に循環器疾患全般を診断するためです。狭心症の疑いが極めて強い患者さまに対しては、「心臓カテーテル検査による冠動脈造影」を行います。検査自体は30分程度で終了しますが、動脈に数ミリの管を挿入するため、止血が完了するまでに平均3時間を要します。
狭心症で治療が必要になった患者さまには、循環器内科、心臓血管外科がカンファレンスを行った後、医学的な観点からの治療の妥当性だけでなく、患者さまの年齢や生活状況を考慮して、お一人おひとりに最も適した治療計画を立てて説明いたします。実際の治療も、患者さまやご家族と相談しながらオーダーメイドで進めてまいります。
虚血性心疾患の治療には、身体に負担の少ないカテーテル治療や心臓血管外科による外科的手術のバイパス術、さらに保存的療法として長期予後改善のための薬物療法、運動療法、食事療法などがあります。
また当院では、複雑な病変をお持ちの患者さまにもカテーテル治療を行っております。
当院における全症例の約85%が、アメリカ心臓病学会の定める比較的困難な複雑病変に該当していますが、治療成功率は約99%です。カテーテル治療で最も困難だとされている慢性完全閉塞病変(長期間完全に閉塞した冠動脈を有する病変)の治療成功率も95%以上です。他院で治療不可能だと診断された患者さまも、ぜひ一度当院までご相談ください。
開胸し、患者さまの別の血管(グラフト)を用いて、詰まってしまった血管部位を回避するバイパスをつくるのが、「冠動脈バイパス術」です。当院では、開院より1,400例(1999年5月~2014年12月)を超える単独冠動脈バイパス術を行ってまいりました。その豊富な経験を活かし、現在は「人工心肺を用いないバイパス術(オフポンプ、OPCAB)」に加えて、グラフトの長期開存(詰まりにくい状態)が最も良い両側内胸動脈を使用することを基本術式としています。その結果、出血量、輸血量を抑え、早期離床プログラムを導入することが可能となり、術後7~10日前後で退院することができます。また症例に応じて、より身体にかかる負担の小さい、「左小開胸によるバイパス術(MIDCAB)」も行っております。
手術を受ける際のリスクは患者さまごとに異なるため、待機的手術の場合は、術前に頭頸部MRIにて、脳動脈狭窄、頭蓋内病変のチェックやCTで全身の血管病スクリーニングを行っています。患者さまの手術リスクを評価した上で、患者さまとご家族に手術の詳細を説明いたします。また、開心術時に脳梗塞を発症する恐れがある場合には、脳血管系手術を先行するなど、脳梗塞リスクの軽減にも配慮しています。
冠動脈バイパス術を受けられる患者さまには、術前より心臓リハビリテーションの計画を開始し、術後1日目からベッドサイドでの立位、術後2日目から歩行を開始します。退院後は、かかりつけ医の先生方と密に連携を取りながら、術後1、2、6、12か月のタイミングで心臓リハビリテーションを含めた、定期検診・検査(負荷心電図や心臓CT、心エコーなど)を行い、運動指導、栄養指導など、包括的に健康管理をします。