見直そう。たんぱく質摂取のすすめ。
新型コロナウイルスの感染者数は減少する兆しもみえず、連日コロナ関連のニュースばかりです。愛知県下にも緊急事態宣言が発令され、自粛生活はまだまだ続きそうです。ネガティブになりやすいこの時期ですが、ステイホームだからこそできる健康管理を取りいれていきましょう。
日本人の食事摂取基準2020年によると、成人の1日当たりのたんぱく質推奨量は男性で60g、女性で50gとされています1)。この推奨量は食品の重量(g)ではなく、その食品に含まれるたんぱく質の重量(g)です。したがって、例えば肉を60g食べれば良いということではありません。ちなみに部位にもよりますが、60gの肉に含まれているたんぱく質は10~15gなので、3度の食事の中でたんぱく質をきちんと摂っていく必要があります。たんぱく質は筋肉や骨など体を構成する主成分で、心臓そのものを維持し円滑に動かす重要な栄養素です。図1にたんぱく質の働きを簡単にまとめました。たんぱく質は体を作る源になるほか、エネルギーそのものにもなり、摂取することで体を温め免疫力の増加にもつながり、“作る”“使う”“守る”といった三拍子そろった体に不可欠な栄養素なのです。
主に動物性たんぱく質である肉、魚、卵、乳製品や植物性食品の一部である大豆製品は良質なたんぱく質(アミノ酸)が豊富です。これらに多く含まれているアミノ酸は骨格筋の合成を促進する他、交感神経を制御する働きがあり、血圧上昇や心拍数増加の抑制効果があります。
図2に食品ごとのたんぱく質の1回摂取目安量を示しました。肉、魚、卵、乳製品、大豆製品に含まれている良質なたんぱく質はもちろん、主食や野菜にも少しのたんぱく質とその他の栄養素が含まれているので、これらを組み合わせて1日男性60g、女性50gのたんぱく質をしっかり摂るように心がけましょう。
人間に備わっている体内時計は、栄養の消化吸収、代謝などの日内変動にも関わりがあるとされ2)、たんぱく質の分解、吸収、合成もその例外ではありません。ある研究グループによるマウスを用いて朝昼夕の各食餌のたんぱく質量を変化させた実験があります。結果は図3に示すように、朝食で多くのたんぱく質を摂取したマウスでは、夕食で多く摂取したマウスや均等に摂取したマウスに比べ筋量の増加が認められ、たんぱく質は朝にしっかりと摂取した方が筋量の増加に効果あがることが示されました3)。
また、対象者は高齢女性に限定されますが、ヒトを対象とした研究で3食のたんぱく質の摂取量と骨格筋との関係性を調査したものがあります。その結果、夕食よりも朝食でたんぱく質を多く摂った女性の方が骨格筋指数や握力が高く、朝食でのたんぱく質摂取量の比率と骨格筋指数は正の相関を示すことが分かりました3)。
ほとんどの方は朝食からしっかりとたんぱく質を摂る習慣は少なく、不足しがちだと言われます。あと1品、卵や乳製品や大豆製品を足す、または摂取量を増やすなどの工夫をし、1日の必要たんぱく質量だけでなくその配分にも意識を向けましょう。
もっと知りたい方へ
食物に含まれるたんぱく質は、体内でペプチドからアミノ酸に分解され吸収されます。そして体内で必要なたんぱく質に作り直されます。これらの体たんぱく質は20種類のアミノ酸からできていますが、このうち8種類(子供は9種類)のアミノ酸は体内で作り出すことができません。作り出せないアミノ酸は食物から摂るしかなく、それを“必須アミノ酸”と言います。そのため、必須アミノ酸が適切な割合で揃っているものが、アミノ酸スコアの高い良質なたんぱく質と呼ばれているのです。食品では肉、魚、卵、乳製品、大豆製品を指します4)。
しかし、いくら良質だからと言ってこれらのたんぱく質をたくさん摂ればいいというわけでもありません。たんぱく質を体内で効率よく合成するためには、たんぱく質以外からのエネルギーも必要です。この比率が偏っていると、どんなに良質なたんぱく質を摂っていても体たんぱく質は増えません。レンガで例えると、どんなに立派なレンガがたくさんあっても、レンガとレンガを接着するものがなければレンガはがっちりと積み上げられないのと同じです。要するにたんぱく質を合成するのにはエネルギーが必要だということです。また、筋肉を増やすためにサプリメントやプロテインからのアミノ酸を必要以上に摂ったとしても筋肉が増えることはありません。筋肉を増やすのは適度な運動の関与が大きいとされています。バランスよい食事と適度な運動、ステイホームだからこそできる健康管理、これに勝るものはありません。
- *1
厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020年
- *2
糖尿病ネットワーク https://dm-net.co.jp/calendar/2021/035969.php
- *3
Aoyama, et al. Distribution of dietary protein intake in daily meals influences skeletal muscle hypertrophy via the muscle clock. Cell Reports. 36(1), 2021.
- *4
中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ