Vol.49:免疫力アップのための生活習慣
これが間違い!免疫力を高めたいヒトへ
新型コロナウイルスは、多くの人たちの生活を変え、心情にも変化をもたらしました。生活リズムが乱れた人がいれば、気持ちが塞ぎ込んで何もする気が起きない、という人もいます。心身の不具合は、免疫力の低下にも繋がります。免疫力アップに大切なことは、①適度な活動性と休養のバランス、②からだを温めること、③ストレスを減らすこと、そして④腸内環境を整えることです。
免疫は、日中の活動中に高まり、夜になると低下します。免疫力を高めるためには、決まった時刻に起きて食事を摂り、しっかりとからだを動かすこと。“活動”と“休養”という一定のリズムを保つことが大切なのです。しかし外出自粛やテレワークにより生活のリズムが崩れ、朝寝坊や夜更かしから抜けられない人が増えました。さらに「コロナが怖い」と、家から一歩も出ず、まさに“不活動”に陥る高齢者もたくさんいます。
図1を見ると、中等度の運動を適度に続けた後では、その4ヶ月後、12ヶ月後に唾液中のIgAという物質の分泌速度が高まることがわかります*1。IgAは免疫グロブリンという抗体の一種で、細菌やウイルスなどの抗原に応じて高い精度で作られ、病原体を排除することができます。また、体温が1℃下がると、免疫力は30~40%低下すると言われています。適度な活動はからだを温め、免疫が働きやすい環境を作ります。
ただし、“激しすぎる運動”は逆に免疫力の低下をもたらすこともわかっています。図2を見てください。“激運動”後数日間にわたり、免疫力は平常時より低下することを表しています*2。強い運動時にはコルチゾルやカテコラミンなどのストレスホルモンが多く分泌され、免疫機能は抑制されます。また、骨格筋に血流が集中する一方で皮膚や内臓への血流は減少し、バリア機能が一時的に低下することも、病原体の侵入を容易にする要因のひとつです。これは“オープン・ウインドウ”と呼ばれ、病原体が免疫を突破しやすい時期を指します。トップアスリートは大きな大会後に風邪を引きやすいと言われていますが、こうした理由によるものです。
睡眠不足や精神的ストレスも、免疫力を落とす大きな要因のひとつです。図3を見ると、睡眠時間が少ないほど風邪を引きやすいことがわかります*3。また別の研究では、学生の精神的ストレスと唾液中のIgA分泌速度の関係を調べたところ、学期始め(9月)の低ストレス時、試験がある高ストレス時(3回)、ストレスから解放された学期末で比べると、高ストレスの時期のIgA分泌速度が有意に低いという結果でした*4。看護師を対象にした研究で、精神的なストレスが高まる仕事が多いときほど唾液中のIgAが低下していることを示したものもあります*5。
免疫細胞を活性化し、免疫物質の産生を促すためには、様々な物質が足りていなければなりません。バランスよく食べる事が大切です。
① 良質たんぱく質の多い食品
免疫細胞や免疫物質の主要な成分はたんぱく質。免疫細胞は寿命が短いため、たんぱく質が足りないと免疫力が落ちるもとになります。肉や魚、卵、大豆製品、乳製品をしっかり摂りましょう。
② 抗酸化作用(ビタミンA・C・E)があるもの
活性酸素は老化や喫煙や紫外線、様々な物質への暴露などによって体内に増え、免疫能の低下をもたらすと言われます。体内の抗酸化作用は30代以降低下していきます。ビタミン類を積極的に摂ることは抗酸化作用を高め、免疫力アップの助けになります。
- ビタミンA:レバー、うなぎ、緑黄色野菜など。皮膚や粘膜を丈夫にする作用がある
- ビタミンC:緑黄色野菜、果物、芋類。白血球のはたらきを強化します。ストレスにより多く消費されてしまうため注意
- ビタミンE:魚介類、ナッツ類など。過酸化脂質の生成を抑え、細胞の老化を防止する
③ 腸内環境を整える発酵食品や食物繊維
発酵食品(ヨーグルト、チーズ、納豆、みそ、漬物など)や食物繊維(海藻類、キノコ類など)をうまく取り入れましょう。
もっと知りたい方へ
免疫システムとは、私たちのカラダの組織をあらゆる害敵から守る“防衛軍”です。自然免疫とは、からだにもともと備わる防御力で、病原体や異物に立ち向かう前線部隊です。最前線は、皮膚や口腔内の粘膜、目の角膜などにある、唾液や気道粘液、涙など。これらのバリアを突破した外敵に対してはマクロファージや樹状細胞、好中球などの白血球が、敵を直接食べたり殺菌性物質を出したりして応戦します。一方獲得免疫とは、病原体と戦いながら、敵の情報を記憶し、同じ病原体の次なる侵入に備えるしくみです。病原体が持つ「抗原」と呼ばれる特有の成分を読み取り、その病原体に合わせていわばオーダーメイドの武器である「抗体」を作ります。
免疫システムについては、2020年1月のコラムでも触れていますのでご参照ください。
実は、免疫細胞の60~70%が腸管に集まっています。腸は、食べ物と一緒に入ってくる病原菌やウイルスなどに体内で最も接するフロントライン。だからこそ大量の免疫細胞が、栄養や水分を吸収する腸の壁のすぐ内側に密集して、外敵の侵入に備えているのです。外敵をブロックするだけではありません。腸の壁の中にはなんと、外敵をわざわざ引き込んで迎え入れる部分があります。免疫細胞に触れさせて攻撃すべき敵の特徴を学習させ、抗体を作り、次の侵入に備えます。そして、学習を助けるのが腸内細菌であると考えられています。このように、腸管は“獲得免疫”の主要な舞台となっています*6。
腸内環境を整えることは、そのまま免疫力アップに繋がるといっても過言ではありません。そのためには、腸を冷やさないこと、自律神経系を整えること、特定の栄養に偏らないこと、そして規則正しい食事を心がけることです。
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1
つい二度寝や朝寝坊してしまう ⇒ 副交感神経から交感神経への切り替えがスムーズにいかなくなり、免疫のはたらきも整わなくなります。
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2
日中もあまり動かずゴロゴロ過ごす ⇒ 不活動によって免疫活動も“不活性化”する恐れあり。
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3
食べたり食べなかったり、不規則な食事や偏食を続ける ⇒ 腸内環境が乱れ、健全な免疫力を維持できなくなることも。
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4
夜更かししてパソコン、スマホ、ゲームに没頭する ⇒ 交感神経優位のまま副交感神経が抑制され、夜に免疫が低下した状態からの免疫力回復が遅れます。
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5
日々のアルコールが増加 ⇒ アルコールは高カロリーなので、すぐに体温が上昇しますが、数時間後には冷えていきます。酔いが回ると気づかないうちにからだの冷えが進み、免疫の低下に繋がることも。
図4に、“免疫力アップの習慣、ダウンの習慣”をまとめてみました。
“ステイ・ホーム”によって生活習慣が変わってしまった人も多くいることでしょう。心当たりのある方は、免疫力アップのために今日から生活習慣を見直すことが大切です。
- *1
Akimoto et al. Br J Sports Med 2003;37:76-79
- *2
Pederson, et al. 1998
- *3
Prather, et al. Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. Sleep. 2015 Sep 1;38(9):1353-9.
- *4
Jemmott et al. Academic stress, power motivation, and decrease in secretion rate of salivary secretory immunoglobulin A. Lancet. 1983;25: 1400-2.
- *5
Front Public Health. 2014;13:157
- *6
NHKスペシャル「人体」 万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった