エンプティ・カロリー(空っぽのカロリー)
大切なものを放棄した食事をしていませんか
今、肥満の原因として専門家が注目しているもののひとつに、「エンプティ・カロリー」があります。エンプティとは、空っぽ、という意味。エンプティ・カロリーというと、「ゼロカロリー」と勘違いしているひともいるようですが、実際はそうではありません。空っぽなのは、大切な栄養素のこと。エンプティ・カロリーとは、「カロリーは高いが、タンパク質やビタミン、ミネラルなどからだに必要な他の栄養素をほとんど含んでいない」食品のことを指します。「カロリーは高いのにもかかわらず、栄養が空っぽ」という意味です。
エンプティ・カロリー食品とは、「脂質や糖類などがほとんどを占め、タンパク質やビタミン、ミネラルなどからだに必要な他の栄養素をほとんど含んでいない食品」のこと。例えば、炭酸ジュースや果汁ジュースなどの清涼飲料水はエンプティ・カロリー飲料のひとつ。コカコーラ500mlのカロリーは225kcal、タンパク質やビタミンなどはまったく入っていません。砂糖やミルクのたっぷり入ったコーヒーや紅茶のカロリーも200kcal前後です。最近、果実の味のついたミネラルウォーターが人気ですが、ほんのりと甘いだけでも70-100kcal前後になり、純然たるエンプティ・カロリー食品です。砂糖をたくさん使用したチョコレートやケーキなどの甘いお菓子、ポテトチップスどのスナック菓子もエンプティ・カロリー食品。
エンプティ・カロリー食品の問題は、他の栄養素を含んでいないことだけではありません。多くのエンプティ・カロリー食品は、脂質や糖質など好ましくないものが高い比重を占めています。
健康的な食事のタンパク質、脂質、炭水化物のエネルギー比率は“2:3:5”と言われています。ここでは、タンパク質1g=4kcal、脂質1g=9kcal、炭水化物1g=4kcalで計算しています。一方、例えば、ダブルビッグマックというハンバーガーにおける脂質エネルギーは実に全体の6割くらい。1食で1日分の脂質を摂ってしまうような計算です(図1)*1。アメリカ人はこのようなエンプティ・カロリー食品を週に平均3回取っているとも言われ、肥満が社会問題となるゆえんです。アメリカ合衆国農務省は「殆どのアメリカ人は少量のエンプティ・カロリーどころか健康を害する量を摂取している」*2と助言しています。程度の差はあれ、近年は日本人においても懸念されている課題のひとつです。
「お酒のエンプティ・カロリーは太りにくい」、という説があります。アルコールのカロリーそのものはすぐに消費されるため、からだに蓄積されることはありません。しかし、その他のカロリーが消費されず後回しにされるだけなので、結果として肥満の原因となり得ます。また飲み方によってはアルコールが分解される過程で中性脂肪の合成が高まることがわかっています*3。アルコール飲料は糖質が高いものも多く、ビールを1杯飲めば200キロカロリー近くになります。
さらに、おつまみのカロリーも忘れてはなりません。飲酒の際のおつまみは、できるだけカロリーの低いものを選ぶことが大切です。キムチ、豆腐、枝豆、キュウリなどの他、豆類やナッツ、チーズといった糖質の低いものがおすすめです。
もっと知りたい方へ
「カロリーゼロ」「糖質オフ」「低カロリー」などと表示されているドリンクが、数多く出回っています。実はこれらにはほぼ人工甘味料が使われています。人工甘味料はいずれも砂糖の数百倍の甘みがあるといわれています。その中にはカロリーゼロでないものもあります。100ml当たり5kcal未満なら、「カロリーゼロ」「無」「ノン」「レス」「フリー」と表示してもいいという基準があるためです。人工甘味料はカロリーゼロであっても、実は肥満につながる要因があります。それは、次の理由からです。
- 甘いものには依存性、中毒性がある
- 胃にある甘みセンサーが食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌を促す
残念なことに、エンプティ・カロリー食品には美味しいものが沢山あるのが現実です。甘みの強いものを普段から飲んでいると、味覚を感知する舌の「味蕾(みらい)」という甘みセンサーの機能が鈍化していきます。味覚は刺激に慣れやすく、かなり甘くないと満足できなくなります。
近年、甘みセンサーは舌だけでなく、胃や腸、すい臓にもあることがわかっています。胃にある甘みセンサーが甘みを感知すると、グレリンという食欲増進ホルモンが分泌されます。こうして、カロリーオフとうたわれたドリンクでも食欲が増して肥満につながります。さらに、血糖値をコントロールするインスリンが、人工甘味料を摂取した場合にも分泌されることがわかっています。人工甘味料の摂取が続くと、インスリン感受性が低下し、糖尿病へと移行する人すらいます。
また、ダイエット・ソーダがうつ病のリスクを高めるという報告もあります。本当であれば恐ろしい話です。
カロリーゼロとうたわれている甘味料にもリスクがあることをお話ししてきました。とはいえ、甘いものは摂りすぎると依存性が生じますが、適度に摂れば精神安定剤にもなります。疲れたときの甘いカフェオレに救われた、というような経験、誰にでもあるでしょう。また、ダイエット中に少しだけ甘さがある食品を摂ることで挫折することなく継続ができるのであれば、むしろ味方になってくれるはず。要は、使う方の心構えや使い方が重要ということでしょう。いたずらに怖がることなく、上手に取り入れることを考えましょう。
国民健康栄養調査によると、最近の日本人全体の平均脂質摂取状況は約25%であり、アメリカ人に比べたらエネルギー産生栄養バランスはほぼ望ましい状況と考えられます。ただし、20歳以上で脂質を30%以上までとり過ぎている人の割合は、男性で約2割、女性で約3割もみられるとのこと。
これからの日本を背負う人たちの、正しい選択を信じたいものです。
厚生労働省では「エネルギー産生栄養素バランス」として、生活習慣病の予防・改善の指標となる三大栄養素の目標量を、図3の通りPFC比率として提示しています。日本人の食事摂取基準(2020年版)*4は国民の健康の保持・増進を図る上で摂取することが望ましいエネルギー及び栄養素の量の基準を厚生労働大臣が定めるもので、5年毎に改定が行われています。今回の改定では、高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れて策定されています。
栄養素は、摂りすぎても不足してもいけません。健康障害が発生するリスクを少しでも抑えるために、「バランスの良い食事」をとることが重要です。
- *1
http://www.mcdonalds.co.jp/quality/allergy_Nutrition/nutrient2.php?id=1
- *2
What are empty calories?
- *3
Suter PM, Schutz Y, Jequier E.N The effect of ethanol on fat storage in healthy subjects. Engl J Med. 1992;326(15):983-7.
- *4
日本人の食事摂取基準(2020年版)