Vol.40:スポーツの秋です!でもちょっと待って…
体力って何でしょう?
ラグビーワールドカップが始まりました。選手たちの溢れる気迫に感動を覚えるヒトも多いでしょう。ところで、あの人は体力がある、というときの“体力”とは何を指すのか、考えたことがありますか?体力作りを始めよう!と張り切っているアナタ、この機会に考えてみましょう。
よく使われるのは「体力とは、ストレスに耐えて、生を維持していくからだの防衛能力と、積極的に仕事をしていくからだの行動力をいう」という定義です*1。また文部科学省のホームページには、「体力は活動の源であり、健康の維持のほか、意欲や気力の充実に大きくかかわっており、人間の発達・成長を支える基本的な要素である。」とあります*2。
猪飼*1による「体力の構成」では、身体的要素と精神的要素に分類し、それぞれ行動体力、防衛体力に分けて分類されています。図1に示すように、体力は“身体的要素”と“精神的要素”に分けられます。身体的な要素だけでなく、健康への意欲、気力、精神的ストレスへの抵抗力など、精神的な面の充実を図ることも重要です。「意図的に体を動かすことは、更なる運動能力や運動技能の向上を促し、体力の向上につながり、同時に、病気から体を守る体力を強化してより健康な状態をつくり、高まった体力は人としての活動を支えることとなる」とされています。
身体的要素、精神的要素ともに、「運動をするための体力(行動体力)」と「健康に生活するための体力(防衛体力)」とに分けることができます。
- 行動体力
身体を動かすために必要な基本的な身体的能力のことを指します。筋力、運動に合わせて身体の動きを調整するための調整力、行動を起こすための瞬発力、行動を持続するための持久力など、運動をするための基礎となる身体的能力のことです。
- 防衛体力
健康に生活するために、病気にならないようにすることが重要です。
1.高血圧や脂質異常、肥満、糖尿病などの生活習慣病にかからないようにする
2.インフルエンザにかかりにくいなど、感染症をはじめとする病気に対する抵抗力をつける
3.さまざまな身体的・精神的ストレスへの抵抗力をつける
文部科学省は、子どもが体を動かすことは、身体能力を向上させるだけでなく、知力や精神力の向上の基礎ともなるとしていますが、成人にとっても認知機能を維持し、抑うつを予防するという点においては成人にとってもあてはまることです。
しかし、子どもと中高年との違いは、“行動体力”も“防衛体力”も「年を重ねるほど維持しにくい」こと。たとえば、30歳代の時に片足で立ちあがる筋力がなければ、80歳代ではもはや自力で立ち上がることが困難になる可能性が高い!といわれています。もちろん個人差はありますが、落ちた分の体力は日々何らかの努力や工夫で補っていかなければなりません。
国民の体力・運動能力の現状を明らかにするために文部科学省が導入した「ADL(日常生活活動)テスト」を下に掲載しました。
「新体力テスト」の一部*3にはなりますが、あなたもトライしてみてください。
ADL(日常生活活動)テスト各設問とも、1. に回答の場合は1点、2. は2点、3. は3点として合計し、総合得点とする。
- 問1. 休まないで,どれくらい歩けますか。
- 1.5~10分程度
- 2.20~40分程度
- 3.1時間以上
- 問2. 休まないで,どれくらい走れますか。
- 1.走れない
- 2.3~5分程度
- 3.10分以上
- 問3. どれくらいの幅の溝だったら,とび越えられますか。
- 1.できない
- 2.30cm程度
- 3.50cm程度
- 問4. 階段をどのようにして昇りますか。
- 1.手すりや壁につかまらないと昇れない
- 2.ゆっくりなら,手すりや壁につかまらずに昇れる
- 3.サッサと楽に,手すりや壁につかまらずに昇れる
- 問5. 正座の姿勢からどのようにして,立ち上がれますか。
- 1.できない
- 2.手を床についてなら立ち上がれる
- 3.手を使わずに立ち上がれる
- 問6. 目を開けて片足で,何秒くらい立っていられますか。
- 1.できない
- 2.10~20秒程度
- 3.30秒以上
- 問7. バスや電車に乗ったとき,立っていられますか。
- 1.立っていられない
- 2.吊革や手すりにつかまれば立っていられる
- 3.発車や停車の時以外は何にもつかまらずに立っていられる
- 問8. 立ったままで,ズボンやスカートがはけますか。
- 1.座らないとできない
- 2.何かにつかまれば立ったままできる
- 3.何にもつかまらないで立ったままできる
- 問9. シャツの前ボタンを,掛けたり外したりできますか。
- 1.両手でゆっくりとならできる
- 2.両手で素早くできる
- 3.片手でもできる
- 問10. 布団の上げ下ろしができますか。
- 1.できない
- 2.毛布や軽い布団ならできる
- 3.重い布団でも楽にできる
- 問11. どれくらいの重さの荷物なら,10m運べますか。
- 1.できない
- 2.5kg程度
- 3.10kg程度
- 問12. 仰向けに寝た姿勢から,手を使わないで,上体だけを起こせますか。
- 1.できない
- 2.1~2回程度
- 3.3~4回以上
- 12点以下:赤信号です。体力低下状態
- 24点未満:黄色信号です。体力低下に注意!
- 24点以上:青信号です。体力は維持されています
もっと知りたい方へ
“行動体力”と“防衛体力”、どちらも維持する必要があることは前項でお話ししました。体力を維持するために必要なのは、「その人にとっての」適切な運動(日々の活動)、十分な栄養、そして休養です。アスリートたちは厳しいトレーニングに取り組みますが、それと同じくらい食事のコントロールや休養を重視しているといいます。その日の体調に合わせたオーダーメイドのメニューでなければなりません。それはわたしたち一般人にとっても同じこと。スポーツの秋、筋力をどう維持していくか、考えてみましょう。
運動生理学の分野では、体力とは“全身持久力(スタミナ)”を指します。全身持久力が高い人ほど心臓病をはじめとする様々な疾患にかかりにくく健康で長生きすることができる、ということは多くのデータが証明しています。つまり全身持久力を高めることは、健康を取り戻し豊かな日々を送るために役立つといえます。近年、循環器の世界で運動の重要性が叫ばれ、多くの病院で心臓手術後や心臓病後の患者さんに“心臓リハビリテーション”が勧められるのはこのためです。
図2を見ると、普段運動している人としていない人の、将来の生活の質(QOL)や寿命の差がわかります*4。運動をしている人は、10年後も“元気で長生き”を実現できている可能性が高くなります。
体力維持のためのトレーニングは、“有酸素運動”と“レジスタンス運動”を合わせて行うのが効果的と言われています*5。“速歩き”は、誰もが手軽に行える安全な“有酸素運動”です。ただし“ゼイゼイ”と肩で呼吸するような運動は、無酸素運動であり、やりすぎ。心臓に負担をかけることがあるので中高年にはお勧めしません。
また、強い足腰は活動的な日常生活をおくるうえで非常に重要です。強い足腰こそ、“スタミナ”を維持し“強い心臓”を目指すための資本です。お勧めのトレーニング法は“スクワット”と“かかと上げ”。スクワットは、ひざとつま先を外側に向け、ひざを曲げた状態からゆっくりと立ち上がる運動です。お尻を後ろに引いて上体をやや前傾し、膝がつま先より前に出ないフォームで行います。椅子から立ち上がって座る“椅子スクワット”でも構いません。立ちあがる運動により、太ももの筋肉(大腿四頭筋)やお尻の筋肉(大臀筋)、太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)などの下肢全体の筋肉を鍛えます。胸を張って行うことで、腹筋群・背筋群の強化にも効果があります。もも上げは、つま先立ちでゆっくりとからだを持ち上げ、おろす運動です。
スクワット、もも上げとも、「下すときにゆっくりと力を感じながら行うこと」が、より効果的。逆に、いっぺんに100回もできるようなスクワットは、疲れるだけで効果は少ないです。また、「息を吐きながら」行うことがコツ。できるだけほかの部分の力は抜くことも大切です。膝や腰の悪い方はくれぐれも無理のないように!
全身持久力を維持するには、日々の適度な運動以外にも、適切な栄養、そして休養が欠かせません。筋肉を維持するためには、良質なたんぱく質をしっかり摂ること。一食当たりてのひら分の肉か魚、が目安です。また、筋肉は寝ているときに成長します。寝ているときには成長ホルモンがたくさん分泌され、筋肉の回復を図り成長を促すのです。
厚生労働省は、今より10分多く身体を動かすだけで、健康寿命を延ばすことができると宣言しています*6。生涯笑顔で過ごすために、少しだけ生活を変えてみませんか。
- *1
猪飼道夫等編 体力と身体適正 体育科学辞典 第一法規出版 1970. p100
- *2
文部化学省ホームページ:2 体力の意義と求められる体力
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/attach/1344532.htm - *3
文部科学省、新体力テスト実施要項(65歳~79歳対象)
- *4
Belardinelli, JACC Vol. 60, No. 16, 2012
- *5
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-04-005.html - *6
厚生労働省.健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド).2013.
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf