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VOL.33

Vol.33:そのいびき その眠気 ヤバいかも?!
心臓に大きな負担をもたらす睡眠時無呼吸症候群

「旅行に誘われたけどいびきが心配」という人がいます。夜中の無呼吸をご家族に指摘されたという人もいるでしょう。睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気から交通事故を引き起こすなど、今や深刻な社会問題にすらつながっています。怖いのは、睡眠時無呼吸が重要な器官を脅かす重大な病気の入り口かもしれないということ。肥満の人や首が短い人は、睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言われています。また、顎が小さい人、大酒飲みの人などにも、無呼吸の人が少なからずいます。図1のような症状・特徴に心当たりがある人は、要注意です。

肥満の人や首が短い人は、睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言われています。また、顎が小さい人、大酒飲みの人などにも、無呼吸の人が少なからずいます。

心血管疾患の人は効率に睡眠時無呼吸症候群を合併しています

図2を見てください。高血圧や冠動脈疾患では3人に1人、不整脈や心不全では2人に1人、薬が効きにくい難治性高血圧では実に83%もの患者さんが、睡眠時無呼吸症候群を合併していることがわかります*1-*5

無呼吸が重大な心血管疾患の引き金に

睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が止まる病態で、心不全や不整脈などの心血管疾患の引き金になることがわかっています。

睡眠時無呼吸症候群と心房細動

不整脈の一種である「心房細動」が起こると、心臓の収縮のリズムは不規則になります。脳梗塞などの血栓塞栓症の原因となる不整脈です。無呼吸症候群が重症化すると、図3のように15年後の心房細動の発生率が4-5倍に上昇するという報告があります*6。また、重症の無呼吸症候群の場合、無呼吸症候群でない群に比べて夜間の心房細動の発生頻度が4倍以上高かったとも報告されています*7

睡眠時無呼吸症候群と糖尿病(図4)

睡眠時無呼吸症候群がない人に比べ、重症の人は将来糖尿病になるリスクが5倍近くになるというデータがあります*8

無呼吸症候群と高血圧

4年後の高血圧発症リスクを調査した結果、睡眠時無呼吸症候群の人の発症リスクは、健常人の約3倍になるというデータが報告されています*9

睡眠時無呼吸症候群と脳血管疾患

重症例では3年後の脳卒中・脳梗塞発症リスクが3.3倍になることが報告されています*10

体内で起こる“異変”

睡眠時無呼吸症候群では、数秒から数十秒間呼吸が止まった状態が続いた後、急に呼吸を再開することを繰り返します。無呼吸の間、体内では酸素不足が生じます。数十秒単位で低酸素と正常を繰り返すうちに、様々な悪影響が起こります。

  • 自律神経の乱れ:本来眠っているときには休養・回復を促す“副交感神経”優位が有意となりますが、無呼吸により低酸素状態が繰り返しやってくると、睡眠が分断され、“交感神経”の活性が優位になります。からだは活動中と同じ状態となり、ホルモン調節機能や免疫機能の低下をもたらします。
  • 組織の炎症:交感神経優位、免疫能の低下などにより炎症性サイトカインの増加、組織の傷害などをもたらします。
  • 血管内皮障害による動脈硬化の進展:血管内皮細胞の傷害が進み、動脈硬化疾患を引き起こしやすくなります。

もっと知りたい方へ

無呼吸症候群の検査と治療

睡眠は本来、活動中の疲労を回復させる時間ですが、無呼吸が繰り返されることにより、アタマもからだも断続的に活性化され、十分な回復ができません。その結果、日中の活動中に強い眠気や倦怠感、注意散漫などの睡眠不足状態に繋がります。また、無呼吸が繰り返されると、低酸素状態に何度も陥り、しまいには自律神経やホルモン、免疫など調節機構に影響がでます。

無呼吸が起こるふたつのメカニズム

睡眠中の無呼吸には、ふたつのタイプがあります。

1. 空気の通り道である上気道が狭くなって無呼吸になる、“閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)”
無呼吸症候群の9割くらいがこのタイプです。肥満の人や首の短い人に多いタイプです。仰向けになると、舌の付け根や口蓋垂などが下がり、鼻や口から気管への空気の通り道をふさいでしまいます。ほとんどの場合、無呼吸状態が続いたあとに低酸素状態になるため、それに反応して大きな呼吸が復活し、呼吸しようと努力する姿が見られます。

2. 脳からの指令が滞って呼吸が止まる、“中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)”
こちらはより深刻です。肺や胸郭、呼吸筋、末梢神経には異常がないのに、呼吸指令が出ないことにより無呼吸が生じます。指令が来ないため、低酸素になっても呼吸をしようとする努力がみられません。重症心不全患者の3-4割にこのタイプが隠れているという報告もあります。

無呼吸症候群はどうやってしらべる?

疑わしいと思われる方は、医療機関で検査を受けることをお勧めします。

睡眠時無呼吸症候群の診断で最も基本的な指標は、“無呼吸低呼吸指数(AHI=Apnea-Hypopnea Index)”といわれる指数です。AHIは睡眠1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数で表し、この指数によって重症度を分類します。

簡易検査
自宅で簡単な装置を用い、睡眠中の気流やいびき音から気道の狭窄や呼吸パターンを把握し、さらに体内の酸素飽和度を測定します。片手に小さな装置をつけ、電極を張って寝るだけ。ハートセンターをはじめ、多くのクリニックで行っています。

精密検査(終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査)
簡易検査で睡眠時無呼吸症候群が疑われた場合に行う検査です。医療機関に1泊し、睡眠と呼吸の「質」を詳しく調べ、確定診断を行います。主な検査項目は、口と鼻の気流、血中酸素飽和度(SpO2)、胸部・腹部の換気運動、筋電図、眼電図、脳波、心電図、いびきの音、睡眠時の姿勢、などです。この検査は、専門のクリニックや総合病院の呼吸器科、耳鼻咽喉科、睡眠科などで行っています。

睡眠時無呼吸症候群の治療

最もポピュラーな治療法は、“経鼻的持続陽圧呼吸療法”(CPAP:シーパップ)“と呼ばれる治療法で、睡眠中の無呼吸を防ぐため気道に陽圧をかけて空気を送り続けるものです。また、軽症のものでは、歯科装具(マウスピース)による治療があります。睡眠中に装着することで上気道を広く保ち、いびきや無呼吸の発生を防ぐことができます。

日常生活のみなおしも重要です

食事や生活習慣の改善だけで、無呼吸が治る人もいます。肥満や大酒飲み、ヘビースモーカーなどの場合です。特に肥満が原因の場合、減量するだけでいびきも無呼吸もなくなる人が少なくありません。

いびきが気になるアナタ、これを機に、あなたも自身の生活全般を見直してみませんか。

  • *1

    Thorax 2002;57:602-7

  • *2

    Hypertension 200;19:2271-7

  • *3

    Circulation 1998;97:2154-9

  • *4

    Circulation 2004;110:364-7

  • *5

    Cardiology 1999:92:79-84

  • *6

    J Am Coll Cardiol 2007;49:565-71

  • *7

    Am J Respir Crit Care Med 2006;173:910-6

  • *8

    Am J Respir Crit Catr Med 2005;172:1590-5

  • *9

    N Engl J Med 2000;342:1378-84

  • *10

    N Engl J Med 2005;353:2034-41