Vol.32:代謝の上がる冬こそ減量向き!
寒さに注意して適切な運動を継続しましょう
明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。
さて、ただでさえ家でじっとしていることが増える寒い中、三が日の間に家でゴロゴロ、そのままズルズルと運動不足が続き、気づいたら体重が激増!という人もいるかもしれません。しかし、実は冬こそ、夏に比べて運動によるダイエット効果が期待できるチャンスなのです。
人間は恒温動物であり、外気温に関係なく常に一定の体温を保っています。図1を見てください。少し古いですが、基礎代謝量の季節変動を表すデータです。基礎代謝は10月に最低、4月に最高となるような曲線を描いています。この研究によれば、冬から春にかけてのほうが、夏から秋にかけてよりも基礎代謝の平均が高いことがわかります*1。
冬は外気温が低いため、内臓や筋肉などの組織を寒さから守り、機能を維持するには、より多くのエネルギーを必要とします。このため、からだを燃やしてたくさんのエネルギー(熱量)を発生させる必要があります。生命維持のための最低限のエネルギーすなわち“基礎代謝”は、夏よりも冬に上がりやすいのです。基礎代謝だけではありません。冬の時期は気温が低いため、筋肉の温度を上げて活動するためにより多くのエネルギーを産生する必要があります。つまり、身体活動のため筋肉を動かすためにも、冬は夏よりも多くのエネルギーを必要とするのです。
冬は夏に比べ汗をかきにくいので、運動効果も少ないように思えるかもしれません。しかし、逆に、寒い時期にはゆっくりと身体を温めながら運動が行えるため、暑い時期よりは運動がつらくありません。運動習慣のない人であっても長続きしやすいといえます。身体のポカポカを持続できるウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が効果的です。短い時間であっても身体を動かせば、徐々に運動に対する心理的ハードルも低くなってくるでしょう。
安静時に比べ、活動時に賛成される熱量は1.5~3倍以上と言われています。私たちの体温のうち約40%は筋肉から作られるため、冷え性改善のためには身体を動かし、筋肉をつけることが重要です。身体の筋肉の大部分は下半身にあるため、下半身の筋肉を使う運動(スクワット、ウォーキングなど)がより効率的です。
- 筋肉を維持できる
活動性が低下したままでいると、当然筋力は低下していきます。運動は暖かくなってから、と寒い間の数ヶ月も低活動状態を続けては、春になったとき体力の低下に唖然とするかもしれません。
- 筋肉を維持できる
からだが温まることで血行がよくなり、末端の冷えが改善します。また運動により体温が上昇することにより、免疫力が向上することも知られています。ただし、激しすぎる運動のあとは一時的に免疫力低下するという説もあり、注意が必要。
- 筋肉を維持できる
「運動した!がんばった!」という満足感や達成感が得られます。最近話題になっている季節性うつ、特に日照時間が短くなることが関連すると言われる冬期のうつ傾向。ウォーキングなど一定のリズムで行う有酸素運動は、セロトニンの分泌を促すほか、エンドルフィンというストレスを取り除くホルモンの分泌が盛んになります。
もっと知りたい方へ
心血管の患者さんにとって、冬は厳しい季節です。でも、十分な注意を払って運動をすれば、減量だけでなく様々な効果が得られます。運動療法の効用を、表1にまとめました*3。
「有酸素運動」とは、十分な酸素を取り込みながら行う運動のことです。ウォーキング、ジョギング、水泳などジャンルは問いません。屋内で行う運動としては、「踏み台昇降運動」や「スクワット運動」などもよいでしょう。筋肉に酸素をたっぷり取り込みながら行うので、脂肪燃焼効果をあげることができます。息が切れず、他の人と会話できる程度が目安です。有酸素運動のレベルは、その人の体力、運動耐容能そしてその日の状態によっても変わってきます。
なお、きつい運動ほど痩せられる、とばかりに限界まで運動を続ける人がいます。会話ができないほどの運動は“無酸素運動”に入り、体力の消耗というマイナスの影響も伴います。アスリートは別として、一般の人の減量のためには必ずしも効率がいいとはいえません。特に高齢者や心血管疾患の既往のある人は、心血管系に負担をかけないよう“有酸素運動”のレベルで継続的に行うことが重要です。
運動は心臓血管系の病気に良好な効果をもたらします。ただし、寒さ自体が体力を奪う原因のひとつでもあります。長々と運動を続けることは避け、1回に30分~1時間程度にとどめましょう。寒いときに行う運動には、特有の注意点があります。
- 運動の時間帯と場所
早朝や夜間は避け、暖かい日中に行いましょう。また屋外では路面の凍結など他の季節にはない危険が伴うこともあります。悪天候の日や、寝不足や風邪気味など自身のコンディションが少しでも悪い時は、大事をとって休養しましょう。
- ヒートショックに注意
暖かいところから急に寒いところに出たときに、血管が収縮して血圧の急激な変動が起こり、心臓に負担かかかることがあります。心血管疾患のある人は、十分な防寒を心がけましょう。
- 運動前の準備運動
冬は筋肉の温まりに時間がかかり、動きにくいことから、急に運動を始めると怪我の元になります。時間をかけて、ウォーミングアップを行いましょう。
- 運動中の服装・汗対策
運動のはじめは防寒のためのウインドブレーカーなどが必要ですが、からだが温まった後は自身の汗で不快が残ったり冷えてしまったりしないよう、インナーには吸汗・速乾素材を使ったものを選びましょう。また、手袋や帽子など、末端の冷えにも気をつけてください。
- 水分をしっかり摂る
夏と違って汗だくになりにくいため、水分摂取も怠りがち。でも、冬は大気が乾燥しているため、思ったよりも皮膚から水分が奪われています。喉が渇かなくてもこまめに水分を補給することを夏以上に意識しなければなりません。
- 運動後は、感染に注意
運動直後は一時的に免疫力も低下しています。体温の急激な低下により体調を崩しやすくなるため、特に寒い時期には注意が必要です。運動後はタオルなどで汗をしっかりとふきとり、衣服は着替えるなどして冷え防止に努めましょう。
国も、健康寿命の増進のため、運動を勧めています*4。冬でも、日頃から運動をして筋肉を落とさないようにしたいものです。とはいえ、寒い中で無理な運動を続けることは困難だし、下手をするとからだを壊すことにもなりかねません。自分の健康状態や体力に合わせた運動を無理なく続けることです。
- *1
Jpn. J. Biometeor. 24(1): 3-8, 1987
- *2
e-ヘルスネット「疾病の予防・改善と運動」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise-summaries/s-05
- *3
心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)
- *4
厚生労働省「健康づくりのためのからだ活動基準2013」及び「健康づくりのためのからだ活動指針(アクティブガイド)について」