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VOL.22

Vol.22:“メタボリックドミノ” 一気に進むメタボの連鎖

「メタボリックドミノ」という言葉を、聞いたことがありますか?生活習慣病がドミノ倒しのように一気に進み、最後は命を奪う様々な病態を引き起こす恐ろしい状態です。今回は、メタボリックドミノの怖さと、ドミノ倒しの防止のために知って欲しいことを取り上げます。

メタボリック症候群(メタボ)の始まりは、肥満

「メタボリックシンドローム(通称メタボ)」とは、内臓のまわりに脂肪が過剰に蓄積した内臓脂肪型肥満を前提とし、さらに脂質異常、高血圧、高血糖のいずれか2つ以上をあわせもった状態を指します。別名「内臓脂肪症候群」とも呼ばれます。

図1のように、メタボリックシンドロームが進行すると、ドミノ倒しのように高血圧や糖代謝異常などが起こり、次いで動脈硬化、虚血性心疾患や脳血管障害、最終的には心不全や脳卒中、腎不全などの重大な病気が引き起こされます。これが、「メタボリックドミノ」と呼ばれる病態の連鎖であり、日本人の医師、伊藤裕氏がその概念を初めて世に示しました*1

最初の1枚目
肥満

メタボリックドミノの1枚目は、肥満、特に内臓脂肪型肥満です。脂肪細胞には、余分なエネルギーを脂肪として溜めこむ貯蔵庫の役割のほかに、さまざまな働きをするホルモンを分泌する働きがあります。健康な脂肪細胞からは、動脈硬化の進行を抑制したり、糖尿病を予防したりといった、からだを守るホルモンが多く分泌されます。一方、食べ過ぎや運動不足などの生活習慣の乱れが引き金となって肥満が起こると、やがて「血圧高め」「血糖値高め」、「脂質異常」という状態を生じさせ、次のドミノが倒れ始めます。

2列目のドミノ
高血圧、高血糖、脂質異常など、“危険因子”の増加

脂肪細胞からの悪いホルモンが増えた結果、「血圧高め」「血糖値高め」「脂質異常」という悪影響の連鎖が起こり始め、メタボリックシンドロームになります。内臓脂肪型肥満に加え、血圧、血糖、脂質の3項目のうち2つ以上の項目で異常があれば、メタボリックシンドロームと診断されます。

3列目のドミノ
心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈硬化症、腎臓病などの臓器疾患

2列目が倒れただけでは、危険因子が“少し高め”にとどまっており、“病気”とまではいきません。しかし、ちょっとした状況の変化で進行が加速し、本物の高血圧や糖尿病にかかり、さらにこれらが重なり合って動脈硬化が進行、ついには心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈硬化症、腎臓病などそれぞれの臓器障害につながります。

最終列のドミノ
心不全、脳卒中、認知症、失明、腎不全などの致命的な合併症

メタボリックドミノは、進めば進むほど深刻な病態が出てきます。3列目で発症した慢性腎臓病、心筋梗塞、脳血管障害などに喫煙や飲酒など生活習慣病のリスクがいくつも重なると、最終的には心不全、脳卒中、認知症、失明、腎不全など、多臓器不全の状態へ。日常生活もままならなくなり、生命の危機に直結する事態となります。

連鎖を防ぐカギは、1枚目を倒さないこと

最初のドミノを倒すのは、食生活の偏りや運動不足といった生活習慣の揺らぎです、1枚目のドミノが倒れてしまうと、メタボリックドミノは一気に進みます。より上流の、できるだけ早い段階でドミノ倒しを止められれば、最下流の事態を避けることができます。まずは、生活習慣の見直しから始めましょう。

ドミノの1枚目である内臓脂肪型肥満は、悪い生活習慣から起こります。過剰な脂肪や糖質の摂取、ビタミンやミネラルの不足、お酒の飲み過ぎなどの偏った食生活、運動不足、不規則な睡眠、喫煙などの習慣を改めることが必要です。女性の場合は、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの働きが低下する50代前後にメタボリックシンドロームが急激に進むことがありますので、注意が必要です。

もっと知りたい方へ

メタボリックドミノを食い止めよう!
日常で注意すべき落とし穴とは

1枚目のドミノである肥満を防ぐ基本は、バランスの取れた食事、適度な運動、飲酒や間食を減らす・・・といった日常生活の改善であることは言うまでもありません。今回は、あえて誰もが陥りがちな“落とし穴”をご紹介しましょう。

「メタボとまではいかないけれど太り気味」という中高年が、増えています

図2は、15歳以上の肥満者(BMI30以上)の割合を国別に示した図です。BMI30以上といえば、身長160cmであれば78kg、180cmであれば97kg程度。約3人に1人は肥満という米国に比べ、日本人の肥満者は韓国と並んで3%ですから、世界の中ではスリムな国といえます。そうはいっても、40歳頃から、「それほど食べてないのに痩せない」「ひどい食生活をしているわけでもないのに体重が年々微増している」という悩める中高年が増えているのも事実。

痩せない理由、こんな落とし穴も

意外と見落としがちな、こんな習慣、心当たりありませんか?

「早食い」は太りやすい

急いで食べると満腹を感じにくく、普通より量を多めに食べてしまうと言われています。図3では、早食いで満腹の人はそうでない人よりも平均のBMIが高いという結果となりました*2。また、ある日本人の研究では、食後90分間のエネルギー消費量が、急いで食べた場合は体重1kg当り平均7kcalだったのに対し、ゆっくり食べた場合は180calと有意に高くなり、よく噛んでゆっくり食べるとエネルギー消費量が大幅に増えるとの結果でした*3。早食いは胃腸にも負担になり、消化不良となることも、太る原因の一つです。

「欠食」は老けたからだを作りやすい

ついやりがちなのが、食事回数を減らして摂取カロリーを減らすこと。しかし、年とともに筋肉量や骨量は減り、代謝は落ちていきます。欠食を繰り返すことにより栄養が不足すると、痩せるだけでなく“老いた体”を作り出してしまいます。老化に拍車がかかり、結局のところ“痩せる能力”までも低下するという悪循環に陥ってしまうのです。

「睡眠」を削ると痩せにくくなる

図4を見てください。睡眠時間が短くなると、レプチン(食欲抑制ホルモン)の分泌が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)の分泌が増加します。それだけでなく、副腎皮質ホルモンが増加し、成長ホルモンが低下することで、脂肪の蓄積が生じます。6-8時間、質の良い睡眠がとれていますか?とれていない場合は、睡眠不足が痩せない原因の1つかもしれません。

「ストレス」を溜めると体脂肪も溜まりやすくなる

ストレス、多忙は、食事時間の不規則・早食い・夜食など、内臓脂肪のたまりやすい食習慣をしばしば伴います。ストレスホルモンは脂肪を溜める方向にはたらきます。また睡眠時間が短くなると、ホルモンによる食欲制御が乱れるだけでなく、運動不足になりがちですから、エネルギーが消費されず内臓脂肪として貯えられます*4

「適度な便通」なくしては痩せられない

便秘になると、身体の中に余分なものが溜まり、ホルモンのバランスが崩れ、肥満に繋がるとも考えられています。代謝機能にも影響が出てきます。代謝が悪くなると人間の身体はエネルギーを消費しにくくなります。便秘になりやすい人はあまり食物繊維を摂らない傾向があり、食物繊維の少ない食事は総じてカロリーが高いことが多いとも言われています。

多忙の人の運動不足解消には、日常活動を上げること(NEATのアップ)がお勧め

NEAT(ニート)とは「非運動性活動熱産生」を英語表記した「Non-Exercise Activity Thermogenesis」の頭文字を並べた言葉。日常生活の中で消費されるエネルギーのことを言います。ジョギングや水泳といったしっかりとした運動ではなく、日常生活の動きをする際に発生するエネルギーです。NEATは1日の消費エネルギーの3分の1程度ですが、1日を通じて意識すればちゃんと成果が出ることが知られています*5
アナタに合った、できることがきっとあります。是非探ってみてください。

  • 通勤車中では空席があっても座らない
  • ごろ寝でテレビは見ない
  • 食事は一口ずつよく噛む:噛んでいるときは安静時よりエネルギー消費量が20%アップ
  • 新聞、郵便物などを自分で取りにいく
  • 小さなそうじを毎日する
  • 電気器具のスイッチ操作にリモコンは使わない
  • 駅や歩道橋など、積極的に階段を使う
  • *1

    伊藤裕:日本臨牀,61(10),1837-1843,2003

  • *2

    Maruyama K et al. BMJ. 2008

  • *3

    Yuka Hamada, et al. Obesity. (22). E62–E69, 2014

  • *4

    厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット

  • *5

    田中茂穂:身体活動とエネルギー代謝.日本臨床 67:11-15,2009.