Vol.07:「お正月は危険がいっぱい!」知っておくべき心血管系のリスク
お正月はどうしても気分が大きくなって、たくさん食べてしまいがち。「体重アップしちゃいました・・・」、と後悔する人は毎年あとを絶ちません。またおせちは、日持ちがするように塩分を効かせて作られています。特に最近はお店で購入する方が多く、家庭で作るのと違い、なかなか塩分の調節がききません。人体は過剰な塩分を捨てるために血圧を上昇させるので、血圧が上がりやすい方にとっては、要注意です。さらに、おめでたい席でアルコールを勧められたら断りにくい、という方もいるでしょう。禁煙中のはずなのに、雰囲気にのまれてついついタバコも、なんてことも・・・。「分かっちゃいるけど」ワナにかかりやすいのがお正月。
食べ物や飲み物、テレビのリモコン、電話、パソコンなど必要なもの全て、手を伸ばせば届く範囲に置いて生活している状態を言います。トイレ以外は全く移動しない、まさに飛行機のコクピットの中にいるような状態での生活を指します。お正月はもっぱらこの“コクピット生活”あるいは“寝正月”に浸っているという人もいるのでは。 11月のこのコラムで、“座りっぱなしがアナタの命を奪う”という内容をご紹介しました。“不活動”というのは人間にとって、筋肉や筋膜の萎縮や退縮、可動性の低下などを招く要因です。それだけではなく、自律神経や代謝、ホルモンのはたらきなど、内部の機能を低下させる要因でもあります。
以上は、心血管病がない人であれば、割と挽回が効きます。しかし、もともと心血管病を持っている人や高齢者においては、挽回が効かず、本当に“命取り”になることがあります。
塩分は体液の過剰な貯留をうながします。心臓のポンプが正常ならば、余分な水分を溜め込まないようどんどんくみ出しますが、ポンプ機能が追いつかないと、むくみや胸水貯留などをもたらし、進行すると息切れや動悸など、急性心不全の症状に移行します。またアルコールは体液貯留の原因となるだけでなく、交感神経を活性化させ、自律神経のバランスを崩すため、心臓に過度の負荷をもたらします。
心不全が進行すると、免疫力が低下しやすくなります。このため、通常の人よりもウイルスや最近などの病原体を拾い、発症しやすい状態です。寒い中、初詣など人がたくさん集まる場所に出かけることにより、感染症にかかり、その影響で急性心不全を発症することがあり得ます。
冬は血管が縮み、通常の人でも血圧が上昇しやすい傾向にあります。高血圧は動脈硬化のリスクファクターのひとつであり、心筋梗塞や脳梗塞、大動脈解離などの動脈硬化性疾患が冬に多いのはこのためでもあります。血圧は温度差によって変動しやすく、食事や飲酒などで暖まった体で寒い浴室で服を脱ぎ、発作を起こす人もいます。塩分過多状態ではなおさら、血圧が上がります。
その他、つい夜更かしをしたり、いつも飲んでいる薬を飲み忘れたり、お正月にはいろいろな“ワナ”が潜んでいます。もちろん、リスクが低い人は、すぐに生活を切り替えられれば大丈夫。問題は、不摂生がズルズルと続いてしまい、後戻りできなくなることです。リスクの高い人ほど“ワナへの対応力”が乏しく、リカバリーが効きにくいのです。
ハートセンターの心臓リハビリテーションに通院している患者さんには、いつもと違うイベントの前に、リスクに関する注意事項について個別にカウンセリングを行っています。「もっと知りたい方へ」では、“年末年始の行事”に際し、何に気をつけたらいいか、簡単にご紹介しましょう。
もっと知りたい方へ
日本人にとって、年末年始は大切な時期。しかし、心血管リスクのある人にとっては、最もつまずきやすい時期ともいえます。どんなふうに乗り切ればよいのか?今回は、大掃除、初詣および新年会に絞って考えてみたいと思います。
このようなリスクを避ける最も良い方法は、暖かい時期に、少しずつ掃除を済ませてしまうこと。大掃除は年末にやるものと決まっているわけではなく、そもそも一度にまとめてやらなければならないというわけでもありません。また、完璧を機さないこと。今は、窓や高いところなど労力の要る場所だけヘルパーさんや業者さんにお願いすることもできます。お金がかかる場合もありますが、体調を崩して医療費がかさむことを考えれば安い、という考え方もあります。心臓が弱い人ほど、“早めの計画”と“程よい手抜き”は、ここでも大切です。
年末年始にかけて心臓にリスクをもたらす“ワナ”を、以下にまとめてみました。
- 1.過活動
- 2.不活動(運動不足)
- 3.睡眠不足(不眠)
- 4.風邪やインフルエンザ(感染症)などの感染のリスク
- 5.過食
- 6.不規則な食事による栄養障害(栄養不足)
- 7.アルコール多飲
- 8.おせちなどによる塩分過剰摂取
- 9.(人によって)水分不足ないし脱水
- 10.喫煙(普段吸禁煙中でも、雰囲気で吸ってしまったり、受動喫煙が増えたりします)
- 11.(付き合いなどの)ストレス 等々
いかがですか?心疾患患者さんでは、普通の人よりも“リスクへの感受性”が高い場合があります。複合的に作用して、悪影響が倍増することもあります。第一に、ワナを回避する第一歩は、“ワナの存在”を知っておくこと。 第二に、自分がどんなワナに引っかかりやすいかを意識すること。心配な方は、お正月を迎える前にかかりつけ医に相談しましょう。
とはいえ、せっかくのお正月、楽しまずに過ごすのももったいない。「正しく恐れること」が重要です。自分の身を守るのは自分だけ、と心得ましょう。“知っておく”だけで、リスクは半減しますよ。