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VOL.04

Vol.04:肥満だけではない 痩せることもハイリスク!
心血管リスクを増大させる「サルコペニア(筋肉減退)」

肉食はホントにからだに毒?!
フィットネスブームの昨今、太るのを気にしている方は、今や若い女性だけではありません。「食べ過ぎは心臓に悪い」と言って、肉を食べるのを控え、野菜中心の生活にしている中高年の方も多いと思います。メタボにならぬよう、健康に気を配っている姿勢は、良いことです。しかし、「肉食はからだに毒」というのは、本当なのでしょうか?答えは、「ノー」です!
「痩せている人ほど死亡リスクが高い!」という驚愕の事実
図1:J Epidemiol 2011;21(6):417-430

図1を見てください。これは十数年にわたる疫学的追跡調査で、日本人のデータです。BMIとは、体重を身長の二乗で割った値(BMI=体重(㎏)/(身長 (m) ^2)で、端的に言うと、高いほど太っていて低いほど痩せていることを表します。日本人の標準は22前後とされています。

このグラフによると、BMIが低い人、つまり<痩せているほど死亡リスクが高いことがわかります。同様のデータは世界中で示されており、専門家の間では、「肥満パラドックス」と呼ばれています。肥満が心臓に負担をかけることは事実ですが、痩せていることはそれ以上にリスクが高いのです!

メタボより怖い、「サルコペニア」

サルコペニアという言葉を聞いたことがありますか?「サルコ(sarco)」は筋肉、「ペニア(penia)」は減少という意味で、文字通り筋肉が減少して、握力など骨格筋の筋力が低下する状態を表しています。筋肉が減少すれば、からだを支える力が落ちて、ふらつきや転倒のリスクが増えますが、問題はそれだけではありません。恐ろしいことに、骨格筋が少ない、または筋力が弱いひとほど心臓に負担がかかりやすくなります。逆に、心臓が悪くなるほど筋力低下を来しやすいともいわれています。

なぜ筋肉が減ると、心臓に負担がかかるのでしょうか。それは、筋肉が「血液循環の補助ポンプ」の働きをしているからです。心リハNOW Vol.2でも紹介しましたが、骨格筋が収縮することにより、その部分の血液が静脈を介して心臓に返していきます。筋肉が少ない人、または筋肉をあまり動かしていない人は、いわば心臓1個で全身の血液循環を担うようなもの。それだけ、心臓の仕事多くなります。逆に、筋肉をしっかり使うことにより、たとえ心臓が弱い人でも身体的なパフォーマンスを保つことができるのです。

いざ心血管病になってしまったら、痩せている人ほど予後不良
よく誤解されるのが、心臓の患者さんには太った人が多い、ということ。 しかし、実は心血管疾患患者さんにはメタボよりもむしろ痩せている人が多いのです。図2は、心臓リハビリテーションのため名古屋ハートセンターに通院している患者さんの、BMIの内訳です。BMIとは身長と体重から算出される体格を表す数値で、22が標準とされています。青く囲った部分が痩せた人、赤く囲った部分が太った人です。痩せている人の方が多いことが分かります。 肥満は動脈硬化のリスクファクターのひとつであり、病気を防ぐためには肥満にならないように気をつけなければなりません。しかし、いざ病気になってしまったら、痩せすぎることのほうがリスクであることを、ぜひ覚えておいてください。

もっと知りたい方へ

病気になると痩せてしまうワケ
重症の患者さんはなぜ太れないのか?

心不全に限らず慢性疾患が進行するにつれ、痩せてくる患者さんが増えます。重症化するほど太りたくても太れない人の割合が多いのは、なぜでしょう?

胃腸の働きが低下し、食欲がなくなる

心不全が重症化すると、体液貯留が起こりやすくなり、腸管にも浮腫が起こり、腸蠕動や消化吸収が低下、食欲が落ちます。さらに息苦しさなどの症状があると、食事を思うように摂れなくなり、徐々に栄養不足に陥ります。 しかし、それだけではありません。

自律神経の乱れ:交感神経の活性が過度に亢進する

自律神経には交感神経と副交感神経があり、状況に応じてどちらかが強くなったり弱くなったりしてバランスを取っています。心不全が重症化すると、交感神経のほうが過度に強くなり、血圧や脈拍や呼吸が上がる一方、腸管の働きは低下します。

炎症性物質「サイトカイン」が全身の細胞を攻撃する

また、心不全が悪化すると、「サイトカイン」と呼ばれる物質が放出されやすくなります。これが全身の細胞に炎症を起こし、細胞が攻撃されてしまいます。これを「異化代謝亢進状態」と呼んでいます。

心不全は、心臓のみでなく、全身に傷害を及ぼしうる症候なのです。

緊急手術の時に生き残るのは、どっち?
さて、緊急手術となった場合、太った患者さんとガリガリに痩せた患者さんとでは、どちらが助かる確率が高いと思いますか?もうお分かりですね。答えは断然、太った患者さんです。緊急事態に陥ったとき、からだの中では交感神経が過度に亢進し、炎症性サイトカインもからだを攻撃します。この非常事態を乗り切るためのエネルギー源となるのが、体についた脂肪です。脂肪はさながら「冬山で遭難した時のチョコレート」。命がけの治療においては、蓄えはないよりあったほうがいいのです。これも専門家の間で盛んに議論されている「肥満パラドックス」のひとつです。もちろん、脂肪だけでなく筋肉が多ければ、さらに生き延びる確率が高くなります。

それでは、緊急事態に備えてわざと太ったほうがいいのでしょうか?これについてはまだわかっていません。しかし、肥満はそれ自体が冠動脈疾患のリスクファクターであり、図1でも、BMIが高ければやはりリスクは上がることが示されています。あくまで、病気にならないためには、筋肉や脂肪をバランスよく備えることがカギです。