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VOL.26

Vol.26:アナタは大丈夫? 一見普通の体格でも…
メタボより怖い“隠れ肥満(サルコペニア肥満)”

前回は、生理的レベルを超えて骨格筋の量・筋力が減少する病態、“サルコペニア”について考えました。今回は、サルコペニア肥満、別名“隠れ肥満”についてのお話です。最近問題視されている概念で、単なるサルコペニア以上に怖い病態であることもわかってきました。現在では、実に30歳以上の女性の10人に1人が“隠れ肥満”、40歳代の男女の4人に1人は“予備軍”といわれています。

見かけだけではわからない、“隠れ肥満”

A. 身長150cm、体重70kg(BMI 31)、体脂肪率18%の女性
B. 身長165cm、体重58kg(BMI 21)、体脂肪率28%の女性

一見、A. の女性の方が太っているように思われます。しかし、実は体脂肪率は低く、おそらくスポーツ選手だと思われます。一方、一見痩せてみえるB. の女性は、体脂肪率28%と、もう少しで“肥満”の領域に入ることがわかります。サルコペニア肥満(隠れ肥満)とは、「見た目は普通でも、筋肉量の減少により脂肪の量が相対的に多い」状態。B. の女性のような場合、見た目はスリムで体重計に乗っても判断しづらいため、見逃されていることが多いと言われています。

図1は、70代女性の太ももの断面の画像です。左側の健康な人では筋肉(灰色の部分)が詰まっているのに対し、右側の人では脂肪(白い部分)が増え、筋肉がスカスカです。太さは同じくらいなのに、中身はまったく違うのがわかります。

図2は、外見上は同じ体格なのに、筋肉量が違う2人の男性の絵です。このように、見かけだけではわからないのがサルコペニア肥満(隠れ肥満)の怖いところです*1

サルコペニア肥満(隠れ肥満)はなぜ怖い?

サルコペニア肥満(隠れ肥満)の恐ろしさは、その病態を考えるとわかります。

図3をみてください。サルコペニアとは、筋肉(サルコ)が減少(ペニア)すること。筋肉率が男性27.3%、女性22.0%を下回ると、運動機能の低下をきたすといわれます。実際、サルコペニア肥満(隠れ肥満)の人は単なるサルコペニア、また単なる内臓肥満の人以上に、「片足立ち持続時間」が短いことが知られています。一方、肥満は動脈硬化、生活習慣病のリスクを増大させます。このように、サルコペニア肥満(隠れ肥満)は内臓疾患(生活習慣病)だけでなく、身体機能の低下をきたし、移動能力の低下やADL障害にもつながる、恐ろしい病態なのです。

図4は、40-80歳の5,197名を対象にした調査で、サルコペニア肥満(隠れ肥満)は肥満とともに高血圧発症の危険因子であることがわかります*2。また、図5のように、糖尿病発症のリスクは正常者の2.7倍という報告もあります*3

こんな人がサルコペニア肥満(隠れ肥満)に陥る

主な原因は、“運動不足”と“栄養障害”です。若い女性を中心に過激なダイエットに走る人が増えており、これに伴ってサルコペニア肥満(隠れ肥満)の患者も急増中です。ひとたび隠れ肥満体質にはまったら、抜けだすのは至難の業!単なる肥満の解消より困難となります。

運動不足

働き盛りの男性や中高年女性に多いといわれます。筋肉はただでさえ年とともに減少します。日頃から筋肉を使わずサボらせると、筋肉は不要と認識され、さらに減少します。

栄養不足

高齢者に多いといわれています。食が細くなり、筋肉の材料であるタンパク質やタンパク質を合成するために必要なビタミンやミネラルなどが不足すると、健全な筋肉が形成されなくなります。栄養不足は代謝、免疫力や自律神経のはたらきを弱め、さらに体力を低下させます。

もっと知りたい方へ

隠れ肥満の主な原因は、誤ったダイエット

まず、質問。

1, 靴下を片足で立ったまま履けますか?
2, 腕を使わず片足で立ち上がれますか

1. の回答がNOの場合、サルコペニア肥満(隠れ肥満)の疑いがあります。また、30歳代で 2. の回答がNOの場合、80歳になったら自力で立ち上がれない可能性大だと言われています。いずれも、筋肉がスカスカになったサルコペニア肥満(隠れ肥満)の結果です。

若い女性のサルコペニア肥満(隠れ肥満)が深刻

図6は日本人のデータです。なんと、40歳代以上の中高年の7人に1人はサルコペニア、5人に1人は肥満、そして5人に1人はサルコペニア肥満(隠れ肥満)であることがわかります*2。そして、最近20代女性のサルコペニア肥満(隠れ肥満)率の上昇が深刻になっています。20歳代の日本人女性を対象とした研究では、約4人に1人がBMI18.5未満の「やせ」(標準BMIは22)である一方、3-4割という高頻度でサルコペニア肥満(隠れ肥満)がみられることが報告されています*4

サルコペニア肥満(隠れ肥満)の20代女性の特徴として「朝食が少ない」「間食が多い」「ビタミンC摂取が少ない」という報告があります*5
また、食事が不規則で睡眠時間が長く、運動しない傾向があることも報告されています*6

過激なダイエットが、サルコペニア肥満(隠れ肥満)の原因の一つであることは、いうまでもありません。特に運動せずに極端な食事制限を行うと、一時的な脂肪の減少のあとで必ず筋肉の減少もきたします。筋肉が減ると代謝が低下し、脂肪燃焼力が低下、結果的に脂肪の蓄積が起こりやすくなります。かくして、“隠れ肥満体質”へと変貌してしまいます*7

日本の将来を担う若者のこうした状況を、厚生労働省も懸念しているようです。

サルコペニア肥満(隠れ肥満)に陥らないために

ある研究によれば、一方、サルコペニア肥満(隠れ肥満)の女性11人対象に、1日3食2週間の食事介入によって体脂肪と内臓脂肪の減少、インスリン抵抗性の改善、血中脂質の改善、及び貧血指標の改善が認められたそうです。サルコペニア肥満(隠れ肥満)を防ぐために大切な要因は、次の2つ。

  • バランスの取れた、十分な栄養
  • レジスタンス運動(筋力トレーニング)を中心とした運動

筋肉を増やす食事としては、動物性たんぱく質(肉、魚、卵)をしっかりと摂ること。まちがってもお菓子を食事がわりにしないこと。筋トレ後すぐに良質なアミノ酸を摂ると効果的です。食が細く十分なタンパク質が取れない場合には、蛋白質や必須アミノ酸(BCAA:バリン・ロイシン・イソロイシン)のサプリメントを補充するのも効果的です。

また運動では、ウォーキングなどの有酸素運動だけでなく、筋肉を意識して使う筋トレを取り入れる方が効果的とされています。自分の最大パワーの5割程度の重さで十分です。筋肉量の多い下半身を中心に、ストレッチ、スクワット、もも上げ、つま先立ちなどを取り入れましょう。

“体重だけ”では不十分、“体組成”を測りましょう
  • ダイエットして、シルエットは変わらずに体重だけ減った人
  • 若いころと見た目は変わったけれど体重がまったく変わらない人

若さを保ってうらやましい!と思いきや・・・実は、このような人たちこそ要注意!通常、努力しなければ年齢とともに筋肉が減るので、シルエットが変わらず体重だけ減ったとしたら、そう、脂肪が増えているのです。また、体重が全く変わらない人は、筋肉が脂肪に置き換わってしまって、実際には太った可能性があります。つまり、見かけだけでも、体重だけでも、サルコペニア肥満(隠れ肥満)は判断できません。筋肉量や体脂肪率を測ることができる、“体組成計”を利用することをお勧めします。

  • *1

    https://4pack.files.wordpress.com/2009/01/sarcopenia.jpg

  • *2

    Kim, et al., presented at American College of Sports Medicine59th Annual Meeting and 3rd World Congress on Exercise in Medicine.

  • *3

    Srikanthan, et al. Sarcopenia exacerbates obesity-associated insulin resistance and dysglycemia: findings from the National Health and Nutrition Examination Survey III. PLoS ONE 5(5): e10805. 2010

  • *4

    森谷敏夫ら.隠れ肥満女性の食行動パターン及び食事介入効果の生理学的検証

  • *5

    三宅芳枝ら.女子短期大学生の隠れ肥満と食生活習慣.神奈川県立大学短期大学紀要 34:87-93, 2002

  • *6

    林真理子ら.女子学生の隠れ肥満と生活 習慣に関する研究.東海大学短期大学紀要 38:45-50, 2005

  • *7

    小原 克彦.サルコペニア肥満.日本老年医学会雑誌 2014;51:99―108 (25