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VOL.15

Vol.15:アルコール vs. 心臓

毒にも薬にもなる、アルコール

ビールのおいしい季節がやってきました。仕事帰りの一杯、と誘われる人も、少なくないでしょう。今回は、アルコールが循環器系に及ぼす影響について取り上げます。

適度の飲酒はリスクを減らし、過度の飲酒はリスクを上げる

厚生労働省は「健康日本21」の中で「節度ある適度な飲酒」を以下のように定義しています。「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度である*1。」

図1は、14の研究内容をメタ解析した結果を表したグラフです。男女共にアルコール摂取量が1日19g以下であると非飲酒者よりリスクが低いのですが、これを超えると今度はリスクが大きくなることを表しています*2

いわゆるJカーブと呼ばれる現象で、この結果を踏まえて、厚生労働省は1日の適正アルコール量を男性25g以下、女性20g以下と定めています*3。各アルコール飲料に含まれるアルコールの量を表1に列記しました。

過度のアルコールがもたらす循環器系への影響
アルコールの過剰摂取は、尿酸値が上がって痛風になりやすくなったり、脂質代謝異常を悪化させ動脈硬化を進行させたりと、心臓や循環器に対し命にかかわる重大な影響を及ぼすことがあります。
交感神経の過緊張を助長する

自律神経のうち、交感神経を活性化させます。就寝前のアルコールは寝つきをよくするように思われますが、実は逆!意識は失っても頭が活性化されたままとなり、良い睡眠がとれません。適度な飲酒は“景気づけ”になりますが、過度の飲酒は心拍を変動させ、動悸、不整脈、呼吸困難感の原因となります。

脱水状態になり血圧が下がりやすくなる

アルコールは末梢の血管を拡張させ、血圧を下げます。さらに、アルコールの利尿作用により過剰に血管内の水分が失われると、脱水状態を引き起こし、意識障害やショック状態にまで陥ることがあります。

塩分・水分過多となり、体液貯留しやすくなる

ほとんどのおつまみは塩分が濃いため、心臓や血圧にとっては悪化の原因となります。どれくらい飲んだかわからなくなることも多く、体液貯留が増え、心機能が低下している人にとっては大きな負荷の原因となります。

栄養が偏る

毎日多量に飲酒する人は食事がおろそかになりがちで、栄養過多や栄養不足などの“栄養障害”をもたらします。

アルコール性心筋症

心筋細胞内のミトコンドリアでの代謝に必要なビタミンB1欠乏が起こりやすくなり、エネルギー産生効率が低下します。ひどくなると心臓の収縮力が落ち、心不全に陥ります。いわゆる“アルコール性心筋症”です。通常はアルコールをやめれば治りますが、ひどくなると不可逆的となります。

基準飲酒量(ドリンク)

厚生労働省のホームページ上では、アルコール20gが含まれるアルコール飲料の1日あたり基準飲酒量を1ドリンクと呼んでいます。日本における1ドリンク当たりの量を表2に記しました。飲んだ真のアルコール量を把握できるため非常に便利です。

実は、1ドリンクの量は国によって異なる基準があり、20gという日本の基準は、諸外国に比べて多いと言えます(米国:14g、デンマーク:12g、オーストラリア:10g、ニュージーランド:10g、英国:8g)。日本の基準はこれらに比べると突出して高く、今後はこの基準をより厳しく、1ドリンク=10gとする方向のようです*3。厚生労働省では、1日2ドリンクまでの飲酒(女性はさらに少なく)にとどめることを勧めています。アルコールの種類と1ドリンクの量、推奨摂取量のめやすについては、表1、2を参照してください。

「もっと知りたい方へ」では、心疾患をお持ちの方がお酒を飲むときの注意点を説明します。

もっと知りたい方へ

アルコールは百薬の長?!それとも毒薬?
健康な人にとっては、適度なアルコールは心不全の発症を防ぐ

図2は、今から30年ほど前に行われた、45-64歳の壮年期の男女14,629人の男女データです*4。この論文では、“1ドリンク”=“アルコール成分14g相当”と定義し、1週間に飲むアルコール量と将来の心不全の発症リスクとの関係をみています。横軸は1週間当たりの“ドリンク数”、縦軸は心血管リスクの大きさを表しています。

この図によると、アルコールを全く飲まない人の心血管リスクを1とした場合、週7ドリンク程度までと比べ、男性で20%、女性で16%、全く飲酒しなかった群に比べて心不全発症リスクが低くなりました。また週21ドリンク以上では、男性で47%、女性で89%も死亡リスクが増大しました。男性については、1日にビール350ml缶半分程度の人が最も心不全発症リスクが低いといえます。また女性では、1日にビール350ml缶1本を超えると、心不全発症のリスクは上がっていくといえます。少量のアルコールは心疾患のリスクを下げるというエビデンス(Jカーブ現象)は、他にも多く見られます(図1、2)。

ただし、これは、あくまで心不全になる前のこと。心疾患を発症した後は、前述のような悪影響が重症になるほど出やすくなります。ギリギリの心機能で生きている人にとっては、少しの変化でも命取りになります。

適量を守りましょう

日本高血圧学会のガイドラインでは、純アルコールの量で、1日の飲酒量の指針が示されています*5

  • 男性:1日20-30ml
  • 女性:1日10-20ml

心疾患の既往のある方も、概ねこれに準じます。一般に女性は男性に比べてアルコール分解速度が遅いため、体重あたり同じ量だけ飲酒したとしても、女性は男性に比べて臓器障害を起こしやすいことも知られています。これらの理由から女性の飲酒量は男性に比べて少なくすることが推奨されています(表2)。

心疾患を持つ方へ:お付き合いや会合などでの注意点

心疾患があっても、同窓会や新年会など避けられない会合や、どうしても出席したい会合もあるでしょう。そんなとき特に守ってほしいことを、以下に示します。

適正量を守る

できれば、“アルコール抜き”が理想です。どうしても飲みたい時は、“缶ビール350ml1本程度”にとどめることを勧めます。表2に、日本高血圧学会の示す主なアルコール飲料の1日量の目安を示しました。心疾患の既往のある方には、ぜひこの量を守っていただくようお勧めいたします。

塩辛いおつまみ、糖質やカロリーの高いおつまみは避ける

実はアルコール成分以上に問題なのが、おつまみ!漬け物や佃煮などの塩分、スナック菓子、おせんべい、スイーツなどの糖質や脂質は避けましょう。特に夜の会合で要注意。ただし、空腹で飲むこともよくありません。できれば食事と一緒にたしなむようにしましょう。

入浴・運動・仕事前は飲酒を避ける

飲酒後に血管が広がった状態で入浴や運動をすると、急激な血圧の低下をきたすことがあり危険です。またアルコールは運動機能や判断力を低下させます。心機能の悪い人ほどこれらの影響が強く出ます。

寝酒は避ける

泊まりのときも、遅くまで飲むことは避けましょう。寝る直前の飲酒は、交感神経活性を過度に亢進させ、夜間の頻拍や不整脈、早朝高血圧の原因となります。睡眠の質が悪くなり、心臓にとっては多大な負荷となります。少しの飲酒を早い時間で切り上げ、お酒が抜けてから、なるべく早めに就寝することを勧めます。

連日の飲酒は避ける

連日飲酒することは極力避けて、翌日は休養を取り、回復モードになりましょう。休肝日ならぬ“休心日”を作りましょう。

  • *1

    厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット

  • *2

    Holman CD, et al. Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality: a validation of NHMRC recommendations. MJA 164: 141-145, 1996.

  • *3

    樋口進ら、健康日本21推進のためのアルコール保健指導マニュアル, 社会保険研究所, 2003.

  • *4

    Gonçalves, et al. Alcohol consumption and risk of heart failure: the Atherosclerosis Risk in Communities Study. Eur Heart J. 2015 Apr 14;36(15):939-45.

  • *5

    日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014年版」